喜久水酒造
酒蔵の見学も可能で、国内外にファンのいる日本酒は市内の販売店でも購入できる。
趣のある酒蔵も魅力
酒蔵に足を踏み入れると、まろやかで甘い良い匂いに包まれる。喜久水酒造は明治八年に創業し、現在は次期七代目蔵元の平澤喜一郎さんが伝統を守りながら、地元の風土に根ざした酒造りを続けている老舗酒造だ。「喜久水という名前は“日の本(ひのもと)の御国(みくに)と共に祝うべし、幾千代(いくちよ)くめどつきぬ喜久水”という出典不明の古い詩に由来しています。」と、平澤さんは穏やかながらハキハキと話す。日本酒の製造だけでなく、蔵の見学も受け付けている(予約必須)。冬の酒蔵が忙しい時期になると“醸蒸多知(かむたち)”という一般の人が酒作りの現場に職人として入り、日本酒の製造工程を体験できる機会も作っている。大学生から年配の方、さらには国内外からの参加者を迎え入れ、喜久水の技術を共有している。喜久水の酒の味のファンはもちろん、見学や体験を通して日本酒に興味を持つ人も多い。
喜一郎さんの“喜びの酒”
喜久水の酒はどれも個性的だが、看板商品のひとつ「喜一郎の酒」は、平澤喜一郎さんが特に気に入っている自信作。彼自身の名前が入っていることからも、その特別な思いが伝わる。地元能代で育てられた「あきた酒こまち」という米を使い、表面を58%まで削って、米と米麹だけで仕込まれた特別純米酒。口に含むと、甘く優しい香りが広がる。爽やかにスッと抜ける飲みやすさが特徴で、女性にも人気が高い。「自分が本当に美味しいと思える酒を作りたかったんです。飲んでくれた人が笑顔になると、本当に嬉しい気持ちになります。」と、喜一郎さんは穏やかな笑顔で語る。父が手がけた「喜三郎の酒」とはまた違う魅力で、毎日飲んでも飽きない、優しさを感じる味わいを目指し、飲む人の幸せを願って追求し続けている。
喜一郎の酒だけでなく、日本酒は1本で三度楽しめるというのも大きな魅力。冷やして飲むとスッとした爽やかさがあり、非常に飲みやすい。15度ほどの常温にすると、酒本来の風味がしっかりと広がり、より深い味わいを楽しめる。さらに、温めて飲むと香りが一層際立ち、まろやかな味わいが口いっぱいに広がる。飲み方によって異なる表情を見せるので、ぜひ自分好みの楽しみ方を探してほしいと平澤さんは話す。
また、酒造りに使われる米は、削るほどに酒の味が繊細で綺麗になる。50%以下まで削ったものは「大吟醸」「純米大吟醸」、50〜60%まで削ったものは「吟醸」や「純米吟醸」と呼ばれ、精米の加減で「純米酒」や「本醸造酒」、さらには「普通酒」などに分類される。それぞれの違いを知り、味わいの変化を楽しむのも日本酒の奥深さのひとつだ。
トンネル貯蔵庫
喜久水酒造のもう一つの大きな特徴は、奥羽本線の廃線トンネルを利用した地下貯蔵庫だ。煉瓦造りのトンネルは、扉を開けるとひんやりとした空気が漂い、まるで時間が止まったかのような静寂が広がる。これは、1年中自然に11度を保つ地球に優しい冷蔵庫だ。日本酒は光と温度に大きく影響を受ける。光が当たると黄色くなり味が変わってしまう。また、温度が高いと熟成が進む。熟成が進むのは旨みが増して良いことなのだが、進みすぎると邪魔な味わいの方が目立ってくるため、冷暗所での保管が重要となっている。このトンネル貯蔵の始まりは、喜一郎さんの父、喜三郎さんが、ドイツではワインを教会の地下に寝かせていたことから、酒を寝かせてみるとどうなるのかと床下で一升瓶10本を貯蔵、毎年1本ずつ味をみてどのくらいの変化があるかを試してみたことが始まりだった。すると、それがとても良い味になり、試したものは3年で飲み切ってしまった。その後全長100mの奥羽本線のトンネルを山ごと購入。6万本の酒を貯蔵でき、現在は15〜16種類の酒を熟成保存している。光と温度に弱い日本酒は、トンネル内の常に一定の環境が保存と熟成に最適なのだそう。喜一郎さんは、「家での酒の楽しみ方として、冷蔵庫を使って酒を寝かせることもおすすめ」と話す。トンネル貯蔵庫で寝かされた日本酒は、特有のまろやかさを持ち、訪れる人々に感動を与える存在となっている。
〈DATA〉
喜久水酒造
(万町)
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